[ HOME ]

HIKO-KI GUMO

ひこうき雲

(1973.11.20)

ALCA-463
TOCT-10711

ひこうき雲
曇り空
恋のスーパーパラシューター
空と海の輝きに向けて
きっと言える
ベルベット・イースター
紙ヒコーキ
雨の街を
返事はいらない
そのまま
ひこうき雲

プロデュース: 村井邦彦
ディレクター: 有賀恒夫*
エンジニア: 吉沢典夫


いきなり難しいアルバムである。

さてレヴューしようと聞いてみたは良いが、ALFA盤のCDの音質は目に余るほど悪い音質であると感じた。比較して悪いのではなく、絶対的に悪いと感じたのである。 近年リマスター盤が東芝EMIから出ていることを知っていたので、早速購入し比較した。

特に、EMIのリマスター盤を聞いた後で、ALFA盤の1曲目を聞くと、音の悪さにぶっ倒れてしまいそうになる。この音質の違いは、安物のサブプレーヤーとヘッドホンCD900STの組合せでも明らかに体験できる。それでもこのアルバムは、全体を通して所々マスター音源そのものに変えようのない不具合があるようだ。最初に感じた不満の一部はリマスター版でも解消しないことがわかった。

また、後述するが、編集にも不満がある。できれば収録曲を2曲減らしてでも、構成に余裕を持って欲しかった。

バックはのちのティン・パン・アレーのもとになるキャラメル・ママ(細野晴臣/鈴木茂 /林立夫/松任谷正隆)である。従来、「ディープ」「翳りがある」「ダーク」などの形容 が多かったこのアルバムだが、リマスター版では「曇り空」がグルーブしているところなど 新しい発見もあり、ミキシングバランスに原因があったのではと思える。また、このカラー は荒井由実自身というより、キャラメル・ママ(細野晴臣?)の影響も大きい。特にALFA盤 は細野晴臣氏の存在感が大きい。リマスター時にこの力関係やアルバムの成り立ちがどこま で考慮されたのかは興味があるところ。

荒井由実さん自身は、「なんせNHKオーディションに5回も落ちたくらいだから(笑)、ヴォーカル入 れにものすごく時間がかかった。サウンドを作るのにも時間がかかって2年くらいいじって た。」(「月刊カドカワ」1991年1月号)「ひこうき雲のアルバムを録音し始めたのが大学一年の終わりで、二年の暮れに出たの。ひこうき雲をとり出す段階で、詞も曲もできてたのが、三、四曲。曲だけできてたのが五曲ぐらいだったかな。あとは録音中につくったのね。」(「ルージュの伝言」)と述べている。このアルバムでは、ピアノも弾いている。松任谷正隆氏は主にフェンダーローズである。次のアルバムからはピアノを弾かなくなったが、もともと進んで弾こうというよりはディレクターの意向だったようである。

ちなみに、東芝EMIのリマスター版はオリジナルに近い歌詞カードが付いている。

エンジニアの吉沢典夫氏は吉田美奈子さんの「MINAKO」なども手がけている。吉沢典夫氏がマネージャーをする「AST MASTERING STUDIOS」は今でも細野晴臣氏ご用達。松任谷由実さんは中島みゆきさんと対比されることが多いが、中島みゆきのさんのメジャーデビューは1976年で、「THE 14th MOON」「YUMING BRAND」が発売された年である。(ある筋では吉田美奈子さんと比べられるらしい。私もその方が正しいと思う。)

ここでは松任谷正隆氏の名前があまり出てこないが、当時の細野晴臣氏と荒井由実さんだけの直接対決ではこのアルバムはできなかったはず、松任谷正隆氏の貢献は言うまでもない。

この2つ、真剣に比べて聞いていると次第に耳が慣れて混乱するし、リマスター盤での新たな発見も多いので、レヴューは困難を極めている。(1曲6時間くらいかなー?)


ひこうき雲

イントロから「ゆらゆらかげろうが あの子を包む」にかけて、新しい世界の始まりを肯定的に感じさせる曲である。淡々と弾かれるピアノに林立夫氏のドラムが絶妙にかぶさる。もちろん、そのあとにボーカルが入ってきてやっと安心するのである。(ここが聴き所)

この作品は変えることができたことと、できなかったことがある。

ALFA盤は、試聴環境によってはベースの音量バランスが悪く低域が出すぎており、しまりのない印象を与える。これは、リマスター版では改善され、このアルバムを通して(「そのまま」は除く)ヴォーカルが前に出てくるように変更された。たしかに、このボンボンしたバランスはベースの細野晴臣氏の作風に一脈通じるような何かを感じることがあるかもしれない。しかし、それにしてもこのバランスはやりすぎだと思う。

次に変えられなかったことである。前半は特にボーカルが歪んでいる。これは、マスター音源そのものに入っているようで、リマスター版でも歪んでいる。特に前半の終わりあたり「何もおそれない、 そして舞い上がる」というフレーズで顕著。前半のベースもそうだが、収録時にヘッドアンプのゲインを上げ過ぎたような症状である。

最後の「あの子の命はひこうき雲」のくだりで、ボーカルにこぶしが入っている感じがして、少し気になる。。。

松任谷由実さんの特別な思い入れがある曲。

曇り空

サイドボーカルは、松任谷正隆氏である。 このサイドボーカルは、背後霊のように怪しく低い。1曲目の歌詞に続いて、このアルバムがディープであると印象付ける原因になっているのではないか。

この曲と次の曲は、わざわざリマスター盤を買わなくても、これはこれで味わいがある。 しかし、リマスター版ではここでも林立夫氏のドラムが非常に効果的で、細野晴臣氏と結託 したグルーブな演奏が聞ける。ナイロンギターは細野晴臣氏である。おかげで、途中で入る ジャズサキソホンの「大御所」宮沢 昭氏*(2000年に72歳で他界)のフルートもかすみかける程である。まるで大貫妙子さん*のヨーロピアン3部作のよう にボーカルは比較的淡々としているが、バックはのちの「大御所」、当時の「鬼の宮沢」(? )を迎え、HOTなのであった。(温度差から考えて、ナイロンギターよりフルートの方が取りが先かも)

ちなみに、大貫妙子さんのヨーロピアン3部作は5年後、加藤和彦氏のヨーロッパ四部作は6年後である。

恋のスーパーパラシューター

聴きどころはスキャットの女王、伊集加代子*さんを含むSINGERS THREE(伊集加代子、和田夏代子、鈴木宏子)がグルーヴィーなコール・アンド・レスポンスを繰り広げるバックコーラスである。特に最後にボーカルの「恋のスーパー・パラシューター」に答えて「スーパー・パラシューター」と歌う時の腹から出ているビブラート(?)。興味のある人はぜひ探求していただきたい。

1983年に作曲:大沢誉志幸/編曲:大村雅朗で沢田研二氏が歌った「晴れのちBLUE BOY」のジャングルサウンドに通じるようなドラムもご機嫌。(なおさらわかり辛いか)

冒頭の細野晴臣氏のベースは、怪しい音を奏でている。

空と海の輝きに向けて

この曲は、このアルバム中一押しの曲だと思っている。成り立ちは日本的で、七五調にも通じる歌詞を最後の盛り上がりに向かって淡々と詠みあげていく。 リマスター版ではボーカルが前に出てきて、細かいニュアンスを捕らえることができるようになった。反面、少しお嬢ちゃん育ちの若い女性が、少し気取って、淡々と旅立ちの賛美を詠みあげるという従来の印象とは別の作風になってしまったように感じる面も有り、ALFA盤の方がむしろ好ましいと感じる人がいてもおかしくはない。

最後に波音が入るのだが、ALFA盤ではまるでザルに豆を入れたようなちんけな波音で、わざわざ挿入した意味がなくなっている。リマスター盤の波音の方が好ましく、この曲に関してはこの一点だけでALFA盤の価値はなくなってしまっている。

この歌の場面は夜だという人がいるようだが、空がほとんど明るくなった夜明け前だと思う。

きっと言える

鈴木茂氏も手を変え品を変えバッキングしている。ナイロン・ギターは細野晴臣氏である。(高音はアイドル系の歌唱でごまかしているが)ボーカルの調子も比較的良い。

ウェスト・コースト派、 「日本のスタンゲッツ」西条孝之介氏のテナーサックスが途中と最後に入るが、最後はまだ言い足りなのが明らかなのに早々とフェードアウトである。これは消化不良だ。無い方がマシなほどである。短か過ぎるのである。非常に不満だ。西条孝之介氏については、ウエスト・ライナーズ、ウインドブレーカーズをあたると良い。

ベルベット・イースター

この曲は、「ベルベット・イースター」という「べろべろ、たりらん」みたいな響きの呪文を唱えるのが目的である。(嘘)

(これ以上はまた後で、、、)

紙ヒコーキ

ペダルスティールは、はちみつぱいの駒沢裕城氏*。

雨の街を

返事はいらない

そのまま

このトラックは、非常にマスター音源の状況が悪いようである。リマスター版では、前半で急激に位相が変動して、そのあとはボーカルが引っ込みぱなし(テープのアジマスズレのような現象)で最後まで行ってしまう。特に高域の透明感(伸び)が失われている。テープのギリギリ最後の部分を使ったような現象である。

最後にプッチンとリズムセクションのトラックが切れてしまっている。これは、ALFA盤もリマスター版も同じで、残念。もしかして、このままじゃ終われないから、最後に短い「ひこうき雲」を挿入したのか?謎は深まるばかりである。

ひこうき雲

リマスター盤の方が尺が長いかもしれない。いずれにしても、弾き語りの短い挿入で、フェードイン、フェードアウトである。もっと尺が長い方が良かったと思う。このアルバム全体にいえることだが、このような演出が中途半端で満願成就していないのが残念。

ピアノのマイクだが、これはもしかしてフェーダー操作以外に、マイク自身を動かしているのではないか?最後はピアノの中まで入っていくように聞こえる。ただ、マイクを動かしているだけに、ベストポジションにマイクを持っていけていないかも。もし当たりなら、アイディアは面白いが、もっとスタジオの反射音の変化を効果的に利用して、もう少しわかりやすくした方が良いかもしれないと思った。

が、その後の調査*で、このトラックは元々オーディションテープのために、"STUDIO A"のまん中にスタィンウェーのグランド・ピアノを置いて収録したものだとわかった。どうりで、マイクポジションが悪いわけである。私の感覚から言うと「や・め・て・く・れー」である。ちなみに、このアルバムのディレクターである彼によると、荒井由実さんの多重録音コーラスのアレンジはほとんど彼がやったそうだ。山下達郎氏、吉田美奈子さん、大貫妙子さんのコーラスは山下達郎氏がやったそうだ。彼は「どこでつないだかなど、分からないようにつなぐのが仕事よ」と言って、当時の荒井由実さんを泣かせたそうだが、最後に言いたい。「ど・こ・が・や・ね・ん!」

(ただし、ボーカルの音程の正確さを重視したのは賛成できる。また、彼は他にもアルファ時代のブレッド&バター、ハイファイセットなどのプロデュースをしているが、作品としては彼らの代表作といえるものを世に出している。)

Last updating: 2002-07-08