「シックな心の旅」
映画「ねらわれた学園」の主題歌として大ブレークした「守ってあげたい」が収録されている。同曲は、第1回日本作曲大賞受賞曲にもなっており、このシングルとアルバム「昨晩お会いしましょう」から、彼女は2回目の舞台に上がったといえる。ちょうど私がリアルタイムで聴きはじめたのもこの頃。1981年11月の作品。
続くアルバム「PERL PIERCE」に通じるシックなアルバムに仕上がっている。特に2曲目の「街角のペシミスト」は、林立夫氏のドラムや高水健司氏のベースを中心とするリズムがハードボイルドでかっこいい。夏に発売された「PERL PIERCE」は音が良い意味で整理されており、COOLなものになっているが、冬に発売されたこのアルバムは厚めの音でWARMだ。ついでにいうと、エコーの音質が違う。このアルバムでは、エコーの高域に特有の癖が残っており、ひょっとすると本物のエコールーム(ONKIO HAUSの?)を使った最後の作品かもしれないと思う(自信なし)。次のアルバムからは、Cherry Island Studioでミックスダウンしており、エコーも現代的で自然になっている。
いずれにせよ、音作りの面でも大きな転換期を感じさせるアルバム。
「街角のペシミスト」に続く「ビュッフェにて」は、1978年に南佳孝氏に詩を提供した「日付変更線」の女性版といえる歌詞。次の「夕闇をひとり」までの3曲はシックでしゃれた世界を見せてくれる。
A面最後の「守ってあげたい」は名曲。なぜここまで心に染みてくるのだろう。たぶん、人は過去を共有する生き物なのだろう。トンボを採ったり、レンゲを編んだり。母性という話とはちょっと違うように思う。林立夫氏のドラムをはじめとするそれぞれの音は、重なり合って曲に包み込むようなスケール感を与えている。吉川忠英氏(と松原正樹氏?)のアコースティックギターも曲に素朴で優しい余韻を与えている。
B面の1曲目「カンナ8号線」は一転して、マーチ風のリズムが印象的でダイナミックな作品。モノクロームの世界に鮮やかな赤いカンナ。コーラスは杉真理氏のアレンジ。
愛すべき小品「手のひらの東京タワー」の次は、「グレイス・スリックの肖像」。イントロは有名な曲の引用のはずだが、思い出せない。「アンプに火を入れて」の退廃的なメロディーが印象的。ここまで内省的(私小説的?)な作品は、これをもって最後。
「グループ」はアップテンポな曲。まだ、行ってもいない結婚式でのことを色々想像している可愛さと、甘酸っぱい感覚、そして少しだけ覚めた現実を綴った歌詞と、メロディーがちょっと良い。個人的には、このアルバムの中で一番好きな曲。
最後は、雪の降る12月に必ず思い出したくなる名曲「A HAPPY NEW YEAR」。アルバムのエンディングとしてはとても理想的な終わりかたをしている。変わらぬ献身的な思いを、静かに降り積もる雪の音に重ね合わせたピアノ。「こうしてもうひとつ年をとり、あなたを愛したい」、「今年も沢山いいことが、あなたにあるように」。EVER GREEN。
こうしてひとつひとつの曲を採りあげると、素晴らしい曲ばかりが詰まっている。そういう意味では価値あるアルバムだが、アルバム全体でいうと過渡期の印象があり、他にもっと良いアルバムがあると思うので、とりあえずは辛めに4つ星としておく。