「AOR」
所々に当時の心の贅沢さを見せながら、クールな輝きを放つAOR的アルバムに仕上がっている。 シンプルで贅沢なサウンド。人々が、淡い切なさの中にも、心の余裕を実際に共有していた当時を反映する歌詞。今聴くと、現在の日本の貧しさ(たとえお金があっても)を実感する。そういう意味で、今の日本では手に入らない音楽だ。
1曲目から題名どおりの輝きを放っている。それも、抑制がうまく効いているので、とてもおしゃれ(おしゃれ過ぎて、当時は少しとっつきにくかったくらい)。ホーンセクションが繰り返すフレーズも印象的。
次の「真珠のピアス」。冒頭のギターの透明感は、このアルバム全体の印象そのも。シックなリズムセクション、華やかなホーンセクションなど全てがおしゃれ。
全編にいえる!事だが、ボーカルも口元の吐息がわかるように収録されており、音作りの気合が半端ではない。「そっとベッドのしたに、、、真珠のピアス」の最後でエコー成分を上げたときのゾクゾクする感覚との対比が聴きどころ。
3曲目「ランチタイムが終わる頃」がピアノのリフレインでゆっくり終わり、次の「フォーカス」のイントロが「チーッキューン」と入ってくるタイミングは、グルーブ感を伴って秀逸。 夏が一瞬見せる刹那さを、アンバーのフィルムで切取った「夕涼み」でA面は終わり。 B面もミディアムテンポの「私のロンサム・タウン」から。高水健司氏のベースが心地よい。
次の「DANG DANG」は、このアルバムで初めての場面転換。ボーカルと共に静かに力強く入ってくる林立夫氏のドラムが曲を通してのキーになっている。「ダダダン」と歌うバックボーカルが生きてくるのも、裏で機関銃のように鳴っているドラムが素晴らしいから。「彼女は知らないなら友達になるわ」というフレーズも、このアルバムに見え隠れする刹那さと強さを象徴している。 続くアップテンポの「昔の彼に会うのなら」もドラムがいかしてる小品。 ここまで、クールにぎりぎり抑えてきた心の高ぶりが、スローな「消息」の「その時苦しみが消えていくのを見た」というフレーズで発露する展開も、このアルバムの味。
ここまでで、5つ星。トータルアルバムとして名盤。また、20代OLの多感な感性を表現した鋭い歌詞に対て、曲とアレンジが上手くかみ合っているという点でも、名盤。
しかし、最後の切ないが甘ったるい「忘れないでね」は余分だと思う。最後で冷酷になれなかったのは、アルバムとして-0.5ポイントかな。